CAN構築による地域ビジネスの再活性化 宮尾 尊弘 中原 新太郎 (国際大学GLOCOM) (三菱電機株式会社) 1 要旨  現在、日本の各地で従来型の地域ビジネスが低迷し、地域全体の衰退が目立ってい る。しかし他方、ビジネスのニーズやシーズは最近になるほど地域のコミュニティに 多くみられるともいえる。例えば、医療、教育、環境、住宅、レジャーなどの分野が それである。 この報告では、地域ビジネスの再活性化のためには、新しい情報ネットワークである CAN(コミュニティ・エリア・ネットワーク)の構築が必要であることを示したい。 2 揺らぐ地域経済の基盤  日本の地域経済が急速に落ち込んでいる。日本経済全体が低迷する中で、最も困難 な状況に置かれているのが地域のビジネス、特に中小企業や個人企業である。実際、 最近になるほど地域の中小企業を中心に倒産件数も負債額も急増しており、まさに日 本全体の基盤が揺らいでいるといえる。  地域のビジネスが特に難しい立場に追い込まれている理由は、当面の不況と金融不 安の影響といった要因以外に、以下のような構造的な要因があるからといえる。  第1に、グローバルな競争に直面した大企業が従来型の系列関係を整理にかかって おり、その影響を下請け的立場にある地域の中小企業がもろに受けているためである。  第2に、大型店やスーパー・コンビニの進出によって駅前商店街などにある地域の 中小商店が次々と廃業に追い込まれているためである。  第3に、地域ビジネスの担い手である経営者の高齢化と後継者不足、人材不足によ り経営の合理化や情報化が大企業に比べて大幅に遅れているからである。これは単に 人の問題だけでなく、後に述べるように地域ビジネスを取り巻く環境、特に情報イン フラの劣悪さにも原因があるといえる。 3 ローカルなネットワークが鍵  それではどうしたらよいか。理想的には、各地域でグローバルなビジネスを視野に 入れたベンチャー型の企業が生まれて、地域の産業構造を転換させることができれば、 それに越したことはない。しかし、現実にそのような企業が出てくる確率は極めて 小さい。実際にこれまで、それでも何とかグローバルに通用するベンチャービジネス を立ち上げようと、さまざまな努力がなされ、例えば「ベンチャーキャピタル」につ いては国、自治体、金融機関などが先を争って立ち上げや拡充を図ってきた。しかし、 それがほとんど効果を発揮していないことが明らかになっている。 むしろ焦点を当てるべきは、「グローバル」なビジネスもさることながら、「ロー カル」なコミュニティのニーズではないだろうか。もちろん、ビジネスはあくまで グローバルなマーケットをにらんで行うべきであるが、何を自分の強味とするか、 つまり「コア・コンピテンス」とするかについては、自分がよく知っている「ロー カル」な要素に注目すべきである。  地域の中小企業や個人企業は、これまで依存してきた従来型の系列関係や取り引き 関係が切られていくなかで、主体的に従来型の関係を見直して、その落ち込みを補い 逆転させるために、自分のよく知っている地元の地域におけるニーズを発見し掘り起 こす努力をする必要がある。実際に、各地域コミュニティにおけるビジネスのニーズ やシーズは最近になるほど多くなっている。例えば、新しいビジネスが展開する可能 性が高いといわれる住宅、環境、医療、教育、レジャーなどはすべてコミュニティに 根差した地域特性の強いビジネス分野といえる。  また、情報通信技術がグローバルなネットワーク志向を強めれば強めるほど、その ネットワーク上に乗るコンテンツは、ローカルな地域やコミュニティの特性を反映さ せたものが独自の価値をもってくる。例えば、その地域の歴史や文化の独自性、立地 や環境のよさ、教育は人材面のユニークさなどのローカルな特性をビジネス化できる のは、地元の個人や中小企業であって、たまたまそこに立地する大企業の支店ではな い。  重要なことは、そのような地域特性を最新の情報通信技術に照らして見直し、ビジ ネスに適した形にすることである。しかし、それを地域の個人や中小企業がそれをや ろうとしても、現在のような情報化のあり方ではきわめて難しいといわざるをえない。 4 地域情報化の先進例  ただし、最近の地域情報化の流れを大きく見るならば、分散型で双方向性のあるイ ンターネットの普及により、各地域がその地域特性を把握して、その地域に適合した システムを主体的に模索することをサポートするのに適したものになりつつある。実 際に、うまくシステムとニーズがマッチして、部分的にではあるが、成功例が見られ るようになってきた。  それは以下のようなどちらかというと「周辺地域」と思われる地方に集中して見ら れる。  (1)「民間レベルで情報後進県が県主導で情報化による地域活性化を進めている ケース」。たとえば大分、高知、それに岡山(特に広島と比較して)などが県知事や 県庁のリーダーシップで県内の地域情報化を強力に推進している。これらの例では、 民間だけにまかせておいては情報ネットワーク化が進まない状況にあることと、中央 省庁(通産省や建設省)が県レベルの施策をさまざまな面でサポートしていることが 見逃せない点である。  (2)「地方圏で例外的に民間ビジネス主導の地域情報化が進められているケース」。 たとえば諏訪や浜松のように従来からハイテク産業が張り付いていたことを基盤 に、その地域のビジネス主導で公的関与を最小限にして、地域情報化を進めている例 がみられる。これらの地域は伝統的に民間の起業家や発明家などが集積している場所 で、大都市圏にない地域文化が基盤にあるものと思われる。  (3)「伝統的な農村地域のコミュニティ社会をもとに情報化が進められているケ ース」。たとえば富山県山田村や長野県伊那市のように伝統的な農村コミュニティの 人間関係を基盤にしたり、農村型の有線放送電話を活用したりすることで、新しい情 報ネットワーク化を進めようとする動きが注目されている。  以上のケースに共通の要因は、どちらかといえば「伝統的」な農村地域といった要 素が強い地方ということではないだろうか。その理由は、情報化以前に人間や社会組 織のネットワーク関係が、「伝統的」な農村地域ではコミュニティとしての形態を取 っているのに対して、大都市ではそのようなコミュニティそのものが崩壊しており、 企業や役所といった縦割り組織の吸引力が支配的となっているからと考えられる。ま た東京への対抗意識や後発意識が、地域における産官民の協力関係を緊密にしている 面も大きいであろう。 5  乗り越えるべきハードル  今後、このような地域情報化の動きが、一部の特殊地域にとどまらず、大都市も含 めた日本の地域全体を変える大きなうねりになっていくのか、まだはっきりしない。  最近のビジネスの動きを見ると、次のようなシナリオが一つの可能性として考えら れる。日本の市場では、このところコンピュータ関連のハードやソフトの売れ行きが 頭打ちとなったために、各メーカーが次に開拓すべき市場としてパソコンの保有率が まだ比較的低い地方の中小企業にターゲットを当てて売り込みを図ろうとしている。 もしそれが「成功」すれば、地方における企業の情報化はハード、ソフト、アプリケ ーション、コンテンツ、サポート・システムまですべて中央の大企業主導で進むこと になりかねない。  逆にそれがメーカーによる無理な売り込みとなり、地方の中小企業のニーズに合わ なかったり、またとても使いこなせないものを生み出すならば、過去に何度も経験し たように、供給者主導で行われ失敗した中小企業の情報化の繰り返しになる危険は大 きい。いずれにせよ、このような動きが真の地域情報化を推進することになるかにつ いては否定的にならざるをえない。   実際に、地域の中小企業などを地域レベルでサポートし、地域の構成員すべてをカ バーするような真の地域情報化を進めるには大きな障害がいくつか残っている。  まず、地方情報化を推進すべき自治体自身が情報化ではもっとも遅れている組織で あり、そのような自治体が地域の真の情報化ニーズに応える動きを主導することはか なり難しい。また、地域の構成員の多くがまだ自分たちの直面している問題を解く上 での情報ネットワーク化の重要性をよく認識するまでにいたっていない。さらにそれ と関連して、各地域での人材はまだ不足しており、このインターネット時代の流れに 地方が乗ることを妨げており、供給主導の情報化を地域のニーズに合わせることを困 難にしている。  もっとも、このような問題はまだ大きいものの、時代の流れのなかで少しずつでは あるが解消の方向に動きだしてはいるともいえる。これに対して、以前からほとんど 事態が変化しておらず、いまや最大のネックとなっているのが、コミュニティの構成 員どうしが常時つながっていないという「アクセス」の問題であり、「インフラ」の 問題である。  インターネットを使う者にとっては、インフラの不備が日に日に明白になってきて いるが、とりわけ身近な地域やコミュニティのニーズを満たすために、従来の電話線 に依存するダイアルアップ方式がいかに速度の面でもコストの面でも不十分であるか はいうまでもない。しかし、それだからといって光ファイバーが各家庭まで引かれる といわれる10年後まで待つこともできない。つまり、コミュニティの構成員どうし が高速通信網でつながっていないという事実が、最大の問題として浮上してきたので ある。    6  CAN (コミュニティ・エリア・ネットワーク)の必要性  いまや日本のさまざまな問題を解く鍵が、コミュニティの構成員を常時つなぎ合う 高速な情報ネットワークの構築と活用であることが明らかになってきている。そのよ うな情報ネットワークをCAN (コミュニティ・エリア・ネットワーク)と呼べば、CAN がなぜ必要かは、日本の地域をめぐる状況をふまえれば明らかになる。  つまり、日本の地域経済が直面する問題の多くが、コミュニティのレベルでの情報 ネットワーク化を考えることで新しい解決の方向が見い出されるようになってきた。 例えば、経済の構造を改革するための新しいビジネスとして、住宅、環境、医療、教 育などの分野が指摘されているが、このどれを取ってもコミュニティのすべての構成 員の日常生活に直接関係するとともに、高度情報化を活かして次の時代を先取りする 取り組みをしなければ本格的なビジネスのシーズになりえない分野であるともいえる。 したがって、これらの分野について真のニーズやシーズを見つけだし作り出すために、 コミュニティの構成員が日常的に高速情報通信網でつながる必要がある。  さらにいえば、日本の地域社会が直面する問題は、各地域の組織の硬直性であり制 度の疲労である。具体的には長い年月をかけて確立してきた行政、産業、企業、学校、 そして個人が属するさまざまな組織や団体が地域の中で閉鎖された縦割りの殻の中に 閉じこもり、時代の要請に応じて柔軟に交流し組みかえるという活力がなくなってい る。  この状態を打ち破るべく国家レベルではさまざまな改革を推進しようとしているが 成果はあまりあがっていない。むしろ社会の基礎となる個人が、自分たちの身の回り のコミュニティのレベルで縦割りの殻を破ってつながり交流し合うことが、社会全体 を変える近道である。そしてその気運が最近のボランティア運動の広がりとともに、 地域レベルで急速に高まっており、特に高度情報化によって地域の産官学とボランテ ィア組織がお互いに常につながりあうことが時代の要請となっていると考えられる。  以上のことは、いいかえれば「情報社会にあっては、情報通信基盤が万人にとって の最も重要な社会生活基盤となり、しかも最も多くの情報は、各コミュニティの内部 で生み出され通有される」という基本原則に従って、CAN の構築が急務になっている ということに他ならない。その進め方は、まず地域の主要な組織である企業、自治体、 学校、病院、商店街、団地といった拠点にLANを構築し、次にそれらのLANを相互に つなぎ合うのが適切であろう。  そのようにして、中小企業が地域のニーズやシーズを掘り起こし、実際のビジネス につなげる上で役つCANを構築し、地域内の交流を盛んにすると同時に、外に向かっ て発信するという戦略的なアプローチが必要である。まさに新しい情報ネットワーク 化の時代にあっても、「グローバルに考えてローカルに行動する」ことが、地域のビ ジネスにとって決定的に重要なのである。