在宅ワークとその課題

 

中原 新太郎(三菱電機株式会社) 堀越 久代(在宅ワーク研究会) 金井 祐子(NIFTY SERVE在宅ワーキングフォーラム)

 



1.前書き
  近年、ホワイトカラーの生産性向上とワークスタイルの多様性の追求、情報通信技術の進化
に伴い、また、新たなマーケットとして在宅ワークが注目されている。しかし、その普及に
ついては単にインフラとしての情報通信技術の進展だけではなく、労働評価システム、成熟社
会のライフスタイル形成をはじめ、多くの分野にまたがる課題も多い。
 ここでは,これらの課題につき、関連調査の結果1)2)に基づいて論ずる。

2.在宅ワークの利点と可能性の拡大
現在考えられる在宅ワークの利点を以下に示す。
  (1)通勤時間の短縮等による生産性向上
  (2)職住接近に伴う地域コミュニティーと就労者との密着化と地域活性化
  (3)ライフステージ等により選択可能な就労形態の拡大
  (育児・介護との両立、障害者・高齢者の雇用等)
  (4)環境への負荷軽減や均衡した国土利用実現
  (5)災害時の危機管理等都市経営上の課題解決等が考えられる。

現在、在宅ワークは就業スタイルとして注目されており、拡大しつつあるが、その背景としては

  (1)ホワイトカラーの生産性向上の要求
    (通勤時間短縮、創造性の向上、権限委譲・業務改革促進)
  (2)ワーク・ライフスタイルの多様性の追求
  (3)アウトソーシング・脱系列の拡大
  (4)Iternet、ISDN、移動体通信等に代表される情報通信ネットワ-クの進化と低価格化
  (5)パソコン等情報通信機器の性能向上と低価格化・操作性の向上に伴う普及

等の要因が挙げられる。また、社会情勢・環境として以上の要因に加えて

  (1)企業組織のフラット化とアウトソーシングの拡大
  (2)多様性を追求する生活意識の変革
  (3)収入確保から自己実現への就労意識変化
  (4)国・地方自治体等によるベンチャー振興策

等が実現されつつあり、情報通信技術の更なる進展とあわせて可能性が拡大する方向にある。

3.在宅ワーカーの現状
3.1.在宅ワーカーの構成
  在宅ワーカーを雇用・契約関係から分類すると(1)正社員・契約社員(雇用型)、(2)下請け型、
(3)フリーランス型に分けられる。この中で(1)の雇用型が主体である米国に対し、日本では(2)
下請け、(3)フリーランスが多く、かつ、子供を抱えた女性の指向が強い。
また、近年のInternet関連市場の拡大に伴い、事業者性が高い若年男性の参入も拡大している。
ちなみに、最近の調査結果2)の回答者中、女性が66%であった。また、雇用・契約形態から比較
し2)図1に示す。

また、在宅ワークの期間は、1年未満が36%、1年〜1年11ヵ月が18%、2年〜2年11ヵ月 が12%であり、5年〜9年が13%、10年以上は2%にすぎなかった。 期間1年未満の比率は95年:30%、96年:31%、97年:36%、最新の98年の調査 の速報値では29%とほぼ30%前後で推移しており、順調に裾野が拡大している状況が見てと れる3)。 3.2.在宅ワークを選んだ動機 在宅ワークを選んだ理由2)を図2に示す。

図2.在宅ワークを選んだ動機

図2より、自ら求めて選択している場合、周囲の状況によりやむを得ず選択した場合等、様々な 要因が複合していることがわかる。 ちなみにワークスタイルについては「満足している」が48%、「ほぼ満足している」が46%、 「やや不満」が5%、「不満」が1%となっており、継続については88%が希望している2)。 継続の希望は比率は95年:63%、96年:83%、97年:88%、最新の98年の調査の 速報値では83%と高水準で推移している3)。 3.3.就労環境 まず、在宅ワークを行なう場所、状態であるが、 @専用、または独立的に使える部屋で、集中して行う……………… 42% A専用、または独立的に部屋ではないが、基本的には集中して行う 30% B居間等で必要に応じ家事育児などをこなしつつ行う……………… 28% の順となっている2)。ここで、誤解されやすいが、在宅ワーカーはあくまで「家」を拠点とした 就労形態であり、「家に閉じ篭って働く」ことではない。外部との接触はある程度保たれている。 ちなみに労働時間のうち自宅以外での仕事(打ち合わせや営業など)の時間は1〜2割程度との 回答が52%を占め、それ以下という回答は31%にすぎない2)。また、自由になる時間が増え、仕事 の拠点も自宅近くであるため、地域の社会活動等に積極的に参加している例も見られる。 3.4.就労状況 主たる職種を以下に示す2)。 @ワープロ/データベース入力…………52% Dライター………………12% Aソフト関連………………………………18% Eテープ起こし…………11% BDTP/電算写植………………………16% F翻訳…………………… 7% Cクリエイティブワーク(デザイン等) 12% G設計・製図・CAD… 7% である(その他は18%)2)。職種の推移を図3に示す3)。

図3より、入力作業の比率が増えていることがわかる。 次に、3カ月以内に取引のあった得意先2)を図4に示す。

図4より、特定の顧客への依存度が高いことがわかる。仕事の状況は、「継続的にある」という 回答が40%ある一方で、「あったり無かったりである」が25%、「無いときの方が多い」が7%あっ た。就労時間を図52)に示す。

図5より就労時間は、全体的にあまり多くない。これは、収入とも関連している。 年間収入2)を図6に示す。

図6より、年収100万円以下が半数以上を占める。これは、主婦の場合、扶養者控除の対象外 となる収入で仕事量、もしくは報酬を抑制してしまうことも一因であると考えられる。1995、 1996年の調査3)では月収10万円以下(年間120万円)が30%前後であったので、参入者の 増加と共に、競争の激化、扶養控除内で働く事を選択する人の増加により、低所得層が拡大して いることがわかる。他方、経営コンサルタントや弁護士、税理士、デザイナー等、高額の年収を 得、かつ、自宅を拠点としていながらも自らを「在宅ワーカー」と認識していない例も多くある と考えられる。 また、初期投資額は @ 5万円未満………18% E 50〜 99万円……21% A 5〜 9万円……… 3%  F100〜299万円……12% B10〜19万円……… 5%  G300〜499万円…… 3% C20〜29万円………14%  H500万円以上 …… 1% D30〜49万円………16%  I不  明 …… 7% とばらつきがあり、半数以上は50万円未満である。 4.在宅ワーク普及への課題 第2章で述べた利点を有するにも関わらず、日本における在宅ワークの展開は必ずしも順調とは 言えない。正社員の在宅勤務が進む米国に比べ、雇用型の在宅ワーカーが少なく、在宅ワーカー 全体の収入も決して多くはない。その要因は後述するように、複数の分野にまたがっている上、 個人・企業・地域社会・行政の各セクターに内在されており、その解決は容易ではない。また、 個々の在宅ワーカーの環境等によっても異なる。先に示した雇用・契約関係による分類毎に課題を 抽出、整理し、以下に示す。 4.1.正社員・契約社員(雇用型)における課題 ここで問題になるのは (1)労災、及び人材の流動化に対応した社会保険・年金制度の整備 (2)プロセスよりも成果を重視する評価制度への転換 である。労災に関しては、自宅内での怪我等、微妙な問題も多い。一方、評価制度はまだ、プロ セス重視の企業が多いが徐々に成果主体へ切り替えが進んでいる。また、週の内、何日か出勤する 部分在宅ワークも試みられている。 4.2.下請け・フリーランス型における課題 ここで問題になるのは (1)能力開発システムの整備 (2)金融システムの担保主義からの転換、信用供与、資本市場の整備 (3)事業主・労働者の両側面を有する在宅ワーカーのための市場整備(最低賃金制定等) 等である。この中で、(3)について言えば、データ入力等は有形の工業製品ではないため、法定 最低賃金の対象とはならず、発注側と受注側の力関係で金額、契約内容が決められ、受注側が 不利となる場合が多い。また、正式な契約書が取り交わされない場合も散見される。 4.3.在宅ワーカー全体に対する課題 雇用・契約関係によらず、問題となるのは、 (1)家族、社会、企業による「在宅」という就労形態に対する理解・認知 (2)多様なライフスタイルを許容する社会風土 (3)情報通信機器、通信のコスト低減と操作性向上 (4)孤立感等に対するメンタル面のサポート (5)自己管理ノウハウの開発 等があげられる。これらの中には戦後日本の社会システムに根差したものもあり、その解決には 多方面の専門家の参加が待たれる。 なお、先の調査2)において在宅ワーカー自身が困難と感じた点を図7に示す。

次に、在宅ワークの継続が困難と考える場合の理由の順位2) @収入が少ない………………………… 49% A仕事が確保できない………………… 34% B体力的に無理、生活との両立が困難 22% C将来性がない………………………… 20% D一時的な仕事、勤務スタイルである 15% E一人で働くことが向いていない…… 10% その他………………………………… 24% となっている。 5.今後の展望  少子・高齢化社会の進展に伴い、就労・産業構造、社会システムを大きく変える可能性を有する 在宅ワークの重要性はますます高まっていくと考えられる。この、システムが、その利点を十分に 発揮しつつ、個人・企業・地域社会にランディングしていくための条件整備を検討するために、 現在、実態把握を中心とする基礎的な調査研究を推進中である。 1)在宅ワーク研究会「家で働く」-在宅ワークの現状と課題-,1996年5月 2)NIFTY SERVE在宅ワーキングフォーラムアンケート調査,1996年 3)NIFTY SERVE在宅ワーキングフォーラムアンケート調査,1995〜1998年